バイオマス・リサイクルプラスチックの課題

自動車業界や産業機器などの工業製品分野において、脱炭素(カーボンニュートラル)と資源循環(サーキュラーエコノミー)への対応は、もはや避けて通れない最優先課題です。

経営層や顧客からは「環境配慮型素材への転換」を強く求められる一方で、現場のエンジニアは「品質の安定性」「成形不良のリスク」「耐久性の担保」といった極めてシビアな現実に直面しています。
「バイオマスプラスチックは土に還ってしまうから工業製品には不向きだ」という誤解も一部にありますが、実際には耐久性を維持したまま植物由来原料を使用する「非生分解性バイオマス」の活用が広がっています。また、廃棄プラスチックを再利用する「リサイクルプラスチック」との併用も不可欠です。

本記事では、これら環境素材を射出成形に用いる際に生じる特有の課題を技術的視点で深掘りします。カタログ値だけでは見えてこない成形時の挙動や、開発コストを抑えつつ確実に実装へ導くための「既存金型を活用した材料試験」の重要性について、詳しく解説していきます。

バイオマスとリサイクル:工業製品に求められる環境対応素材の基礎

現在、工業製品の現場で求められているのは、単なる「環境に良い素材」ではなく、「機能と環境性能を両立した素材」です。その双璧をなすのがバイオマスプラスチックリサイクルプラスチックです。

工業製品に不可欠な「非生分解性バイオマスプラスチック」の役割

バイオマスプラスチックは植物などの再生可能な有機資源を原料としていますが、エンジニアがまず理解すべきは「生分解性」と「非生分解性」の明確な違いです。
生分解性プラスチックは微生物によって分解される性質を持ちますが、10年以上の長期耐久性が求められる自動車部品にとっては、不意の劣化を招くリスクとなります。

そこで工業製品では、原料は植物由来ながら性質は従来の石油由来樹脂(PP、PE、PET等)と同等である「非生分解性バイオマスプラスチック(ドロップイン型)」が主に採用されています。これにより、製品の信頼性を損なうことなく脱炭素化を推進できるのです。

リサイクルプラスチックが担うサーキュラーエコノミーへの貢献

リサイクルプラスチックには、自社工場内の端材などを再利用する「PIR(ポストインダストリアル)」と、市場から回収された廃棄物を再利用する「PCR(ポストコンシューマー)」があります。

特に資源循環の観点からPCR材の活用が世界的に義務付けられつつありますが、リサイクル材は熱履歴による分子鎖の切断や不純物の混入といった、バージン材にはない特有の不安定さを抱えています。

カーボンニュートラル実現のメカニズム

バイオマスプラスチックがなぜ「環境に良い」とされるのか。その本質は、大気中の炭素循環にあります。石油由来とバイオマス由来の炭素の流れを比較すると、その差は明確です。

【カーボンニュートラルの比較イメージ】

  • 石油由来プラスチック:
    地中(地下)に数億年固定されていた炭素を掘り出し、燃焼時に「新しいCO2」として大気中に放出します。これは大気中のCO2総量を純増させ、地球温暖化を加速させます。

  • バイオマスプラスチック:
    原料となる植物が、今現在の大気中から光合成によってCO2を「吸収」します。製品が廃棄・焼却される際にCO2を「放出」しますが、これはもともと大気中にあったものを戻しただけです。

この「出しても吸った分で相殺される(カーボンニュートラル)」という仕組みにより、製品のライフサイクル全体を通じた二酸化炭素排出量(LCA)を大幅に抑制することが可能になります。

 

バイオマスプラスチックとリサイクル材が求められる背景:規制と世界情勢

なぜ、今これほどまでに素材転換が急務となっているのでしょうか。背景には、グローバルな法規制とサプライチェーン全体での排出量削減要求があります。

国内外の法規制動向:プラ新法と欧州ELV指令のプレッシャー

日本では2022年に「プラスチック資源循環促進法」が施行され、設計段階からの環境配慮が義務化されました。さらに欧州では、自動車の設計・廃棄に関する「ELV指令(End-of-Life Vehicles)」の改訂が進んでおり、新型車に使用するプラスチックの25%をリサイクル材とし、そのうち25%をPCR材から調達するといった非常に厳しい目標値が議論されています。

こうした法規制に適合しなければ、グローバル市場での販売ができなくなるリスクがあります。

Scope 3への対応と自動車業界の供給責任

大手自動車メーカー各社は、自社の活動だけでなく、部品サプライヤーの製造工程や原材料調達まで含めた温室効果ガス排出量(Scope 3)の削減を掲げています。

サプライヤーである部品メーカーにとって、バイオマスやリサイクル材の導入は、受注を維持するための「最低限のパスポート」となりつつあります。

【徹底解説】射出成形におけるバイオマス・リサイクルプラスチックの技術的課題

射出成形の現場において、バイオマスプラスチックやリサイクル材は、従来の石油由来バージン材とは全く異なる挙動を示します。エンジニアが最も警戒すべきは、以下の4つの技術的課題です。

熱安定性の低さと成形温度ウィンドウの狭さ

バイオマス樹脂、特に非生分解性であっても原料由来の不純物を含む場合、石油由来樹脂に比べて熱分解温度が低い傾向にあります。また、リサイクル材は既に一工程以上の加熱(熱履歴)を経ているため、再溶融時の熱安定性が大幅に低下しています。
わずかな温度超過やシリンダー内での滞留によって樹脂が分解し、ガスが発生して「シルバーストリーク」や「色ムラ」を引き起こします

成形条件の許容範囲が非常に狭いため、高度な温度管理が求められます。

シルバーストリークの参考写真

> 射出成形で発生した不良『シルバーストリーク』の発生原因と対策を学ぶ

 

流動特性(粘度)の不安定化による充填不良とバリの発生

バイオマス材はロット間での粘度(MFR)のバラつきが大きく、リサイクル材は分子量分布が不均一になりがちです。

これにより、射出圧力が一定でも「ある時はショートショット、ある時はバリ」という不安定な成形状況に陥ります。特に多数個取り金型や薄肉の自動車部品では、各キャビティへの充填バランスが崩れやすく、寸法精度の維持が極めて困難になります。

ショートショットの参考写真

射出成型ラボが教える「成形不良の発生原因と対策」

 

吸湿性の高さと加水分解による強度低下リスク

バイオマス素材は親水性の官能基を持つことが多く、リサイクル材は不純物の影響で吸湿しやすくなっています。

水分を含んだまま成形を行うと、シリンダー内で「加水分解」が発生します。これはポリマー鎖を断裂させ、外観には異常がなくても「製品強度が著しく低下する」という致命的な欠陥を招きます。自動車の保安部品において、この内部脆化(ぜいか)は深刻なリコールリスクに直結します。

 

リサイクル材特有の「異物混入」と「意匠性の低下」

PCRリサイクル材には、洗浄工程で取りきれなかった微細な異樹脂や金属粉、ラベルの残りカスなどが混入している場合があります。これらは成形品の表面に「黒点」として現れたり、塗装の密着性を阻害したりします。自動車の内装部品など、高い意匠性が求められる製品においては、リサイクル材の配合率と外観品質のトレードオフをどう解消するかが大きな課題となります。

 

課題項目

石油由来バージン材

非生分解性バイオマス

リサイクル材(PCR)

品質安定性

極めて高い

やや低い(ロット差)

低い(不純物・劣化)

熱安定性

高い

やや低い

低い(熱履歴あり)

吸湿・乾燥

標準(管理容易)

厳格な乾燥が必要

非常に厳格な乾燥が必要

成形条件

広い

狭い

非常に狭い

 

バイオマス・リサイクルプラスチックの「コストと供給」の現実的な課題

技術的な課題をクリアしたとしても、次に立ちはだかるのは経済性とサプライチェーンの壁です。

コスト増をどう吸収するか:マスバランス方式の活用

バイオマス樹脂のキロ単価はバージン材の数倍に達することも珍しくありません。このコスト課題に対する現実的な解決策が「マスバランス方式(物質収支方式)」です。

これは、原料の一部にバイオマスを投入し、その割合に応じて製品にバイオマス価値を割り当てる手法です。物理的特性や成形性をバージン材と比較して損なわない程度に配合することで環境価値を付加できるメリットがあります。

 

失敗しないための導入ステップ:既存金型を活用した材料試験

バイオマスやリサイクル材への素材転換を成功させるための唯一の近道は、机上の理論ではなく「実機での検証」にあります。

新規金型投資のリスクを回避する「既存金型」でのトライアル

「バイオマス素材のために新規金型を設計する」のは、最終ステップです。まず行うべきは、現在量産で使用している石油由来樹脂用の「既存金型」に、検討中のバイオマス素材やリサイクル材を流してみることです。
これにより、以下のデータを最小コストで取得できます:

  • 寸法精度の変化: 収縮率が既存のPPやABSとどう異なるか。
  • 外観品質の限界: どの程度の配合率までなら意匠性を維持できるか。
  • 成形サイクルの実態: 冷却時間が延び、コストにどう影響するか。

成形性だけでなく製品評価(エビデンス)を取得する

既存金型で成形したテストサンプルがあれば、その足で「経時変化試験」「ヒートサイクル試験」「衝撃試験」といった自動車部品特有の過酷な評価に回せます。

材料メーカーから渡されるデータシートの数値ではなく、自社の製品形状での「実力値」をエビデンスとして持つことが、社内承認や顧客提案における最強の武器になります。

射出成形ラボが提案する、手軽かつ高精度な実証テスト

しかし、量産で使用している金型でいきなりテストできますか?万が一の場合、成形機や金型へダメージを与え、想定外の生産ストップになる可能性があります。量産金型でトライするにはある程度の確証を得て、生産ラインがストップするリスクを最小限にして行うべきです。

そこでおススメなのが、当社保有の既存金型による材料トライです。ダンベル試験片やリブ、ボスなどの工業製品で使用することが多い形状を入れたプレート、立体形状のスマホスタンドなど、材料トライに使用できる既存型をご用意しております。

当社では、金型製作、量産成形で培ったノウハウを活かし、当社保有の既存金型を用いた材料トライアルを承っています
「このバイオマス材は使えるか?」「リサイクル材を何%まで混ぜられるか?」といった疑問に対し、専門のエンジニアが成形条件を最適化し、材料トライをアシストします。

バイオマスとリサイクルの課題を克服し、持続可能なモノづくりを加速させる

バイオマスプラスチックとリサイクルプラスチックの導入には、熱安定性の低さや品質のバラつきといった、射出成形現場を悩ませる多くの課題が存在します。しかし、世界的な脱炭素・資源循環の流れは止まることがなく、エンジニアにはこれらの素材を使いこなす「技術的対応力」が求められています。

大切なのは、理論だけで判断せず、実際の金型で「試してみる」ことです。

既存金型を活用した材料トライアルは、リスクを最小限に抑えつつ、環境素材のポテンシャルを肌で理解する最も合理的で確実な解決策です

当社と共に、バイオマス・リサイクル素材の課題を一つずつ解消し、次世代のモノづくりをリードしていきましょう。

 

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