目次
外注 vs 自社導入の判断基準
流動解析の導入方法で迷った際、最も明確な判断基準となるのが「年間の解析件数(頻度)」と「社内リソース」です。それぞれの特徴と損益分岐点について、まずは結論から比較・解説します。
比較表で見るコスト・期間・精度の違い
外注と自社導入(内製化)には、コスト構造や運用面で明確な違いがあります。以下の比較表をご覧ください。
|
比較項目 |
外注(アウトソーシング) |
自社導入(内製化) |
|
初期費用 |
0円 |
数百万円〜1000万円以上(ソフト・PC) |
|
ランニングコスト |
都度払い(数万円〜数十万円/件) |
年間保守費(数十万円〜)+人件費 |
|
納期・スピード |
依頼後、数日〜1週間程度 |
即時〜数時間(計算時間による) |
|
解析精度 |
高(専門家の知見あり) |
担当者のスキルに依存(最初は低い可能性も) |
|
担当者の負担 |
低(データ送付と条件指示のみ) |
高(条件設定、計算、結果分析全て行う) |
|
ノウハウ蓄積 |
しにくい(レポートのみ) |
蓄積しやすい |
損益分岐点はどこ?年間何件なら元が取れるか
コスト面だけで判断する場合、損益分岐点の目安となるのは「年間の解析件数」です。
例えば、標準的な流動解析の外注費が1件あたり10万円〜20万円だとします。一方、自社導入にかかる年間コスト(ソフト保守費+PC償却+担当者の人件費の一部)を仮に年間200万円〜300万円と見積もった場合、年間で約15〜20件以上の解析を行うのであれば、自社導入の方がコストメリットが出る計算になります。
逆に言えば、月に1回あるかないか(年間数件程度)の頻度であれば、無理に導入せず外注を利用したほうが圧倒的に安上がりです。また、最近では数万円から依頼できる簡易解析サービスも登場しているため、案件ごとに見積もりを取って判断するのが賢明です。
「解析専業」か「金型メーカー」か?外注先の選び方
もし「外注」を選択する場合、依頼先は大きく「解析専業会社」と「金型メーカー(成形メーカー)」の2つに分かれます。
- 解析専業会社
解析ソフトの操作に精通しており、理論的なレポート作成が得意です。ただし、実際の金型作りや成形現場の知識が乏しい場合、「解析上はOKだが、金型仕様の提案は不足」の提案になるリスクがあります。 - 金型メーカー(解析対応)
実際の金型設計・製作を行っているため、成形現場のリアリティを熟知しています。「この形状だとガスが溜まりやすいから、ここにベントを設置しよう」「ゲート位置はここだと加工できないからズラそう」といった、製造要件を加味した実践的な解析と提案が可能です。
結果をそのまま金型製作に反映させたい場合は、解析の知見を持つ金型メーカーへの依頼が推奨されます。
流動解析を「外注」するメリット・デメリット
ここからは、それぞれの選択肢についてより詳しく見ていきます。まずは、多くの企業が検討の入り口とする「外注」についてです。
結論として、解析頻度が低く、高度な解析が必要な場合は外注が有利です。
外注のメリット
外注の最大のメリットは、高額な初期投資が不要である点です。流動解析を行うには、数百万円する解析ソフトや、高度な計算処理を行うためのハイスペックなワークステーション(PC)が必要です。外注であればこれらの設備投資は一切不要で、解析が必要になったタイミングで費用を支払うだけで済みます。
また、「解析のプロ」の知見を活用できる点も大きな魅力です。解析ソフトはただ計算させるだけでなく、適切な条件設定(樹脂温度、金型温度、射出速度など)や、出力された結果を正しく読み解く能力が求められます。外注先、特に実績のある解析専業社や金型メーカーであれば、豊富な経験に基づいた精度の高い解析結果と、具体的な改善提案を受け取ることができます。
外注のデメリット
一方で、デメリットとして挙げられるのは「都度コスト」と「リードタイム」です。解析を1回依頼するごとに費用が発生するため、設計変更のたびに何度も解析を繰り返すと、トータルの費用が膨らんでしまいます。また、依頼してから結果が出るまでに数日程度のタイムラグが発生するため、今すぐ結果を知りたいというスピード感を求める場面では不向きなことがあります。
さらに、解析業務をすべて外部に丸投げしてしまうと、社内に解析のノウハウや知見が蓄積されにくいという課題もあります。「なぜこの結果になったのか」というプロセスを自社エンジニアが理解しないままでは、次回の設計に経験を活かすことが難しくなります。
流動解析を「自社導入(内製化)」するメリット・デメリット
次に、自社で解析ソフトとハードウェアを揃え、社内のエンジニアが解析を行う「自社導入(内製化)」について詳しく解説します。開発機種が多く、日常的に設計検証を行いたい企業にとっては有力な選択肢となります。
自社導入のメリット
自社導入の最大の利点は、コストを気にせず何度でも解析できることです。「ゲート位置をA案、B案、C案で比較したい」「肉厚を0.5mm変えたらどうなるか」といった細かい検証を、納得いくまで繰り返すことができます。これは設計品質の向上に直結します。
また、タイムラグなしで検証できるスピード感もメリットです。設計しながらその場で解析を回し、数時間後には結果を見て修正するといった、シームレスな開発フローを構築できます。さらに、継続的に運用することで社内に知見が蓄積され、設計者のスキルアップや、自社独自のノウハウ確立につながります。
自社導入のデメリット
自社導入の大きな壁となるのが、コストと人材です。
- 高額なコスト
解析ソフトのライセンス料は、機能にもよりますが数百万円〜1000万円クラスになることも珍しくありません。さらに、毎年発生する保守費用(ライセンス料の約15〜20%程度)や、高性能PCの購入費も必要です。 - 人材育成の難しさ
「ソフトを買えば誰でも解析できる」わけではありません。解析結果の正当性を判断するには、樹脂の特性や金型構造、成形条件に関する深い知識が必要です。専任の担当者を育成するには長い時間と教育コストがかかります。担当者が退職してしまうとノウハウが失われるリスクもあり、属人化しやすい業務でもあります。
射出成形で失敗しないための流動解析の基礎知識

ここまで「外注か自社導入か」という視点で解説してきましたが、ここでは改めて「そもそも流動解析で何ができるのか」「なぜ必要なのか」という基礎知識についておさらいします。
流動解析(CAE:Computer Aided Engineering)とは、コンピュータ上で金型内部への樹脂の流れをシミュレーションし、成形時に起こりうる現象を可視化する技術です。金型製作/修正前の設計段階で「見えない樹脂の流れ」を予測し、成形不良のリスクを事前に回避することが最大の目的です。
流動解析でわかること・解決できる課題
流動解析を行うことで、主に以下の3つの成形不良リスクを予測・対策できます。
- 充填不良(ショートショット)の予測
樹脂が金型の末端まで届ききるかどうかを確認できます。製品の肉厚が薄い箇所や流動距離が長い形状では、圧力が不足して未充填になるリスクがあります。解析により、最適なゲート位置や必要な射出圧力を事前に把握し、ショートショットを防ぎます。 - ウェルドラインの位置制御
2つ以上の樹脂の流れが合流する部分にできる線状の跡(ウェルドライン)の位置を特定します。外観不良や強度低下を防ぐため、ゲート位置を変更して目立たない場所へ移動させたり、ガス抜き(ベント)の位置を検討したりすることが可能です。 - 反り・変形の予測
成形後の冷却過程で製品がどのように収縮し、変形するかを予測します。樹脂の収縮率や繊維配向、冷却ムラによる「反り」を事前に把握することで、あらかじめ金型を逆方向に反らせておく「逆反り補正」などの対策を打つことができます。
なぜ今、流動解析の需要が高まっているのか
かつては熟練した金型職人の「経験と勘」で樹脂の流れを予測していましたが、技術者の高齢化や人材不足により、そのノウハウの継承が難しくなっています。また、製品形状の複雑化や、金属代替のスーパーエンプラなど成形難易度の高い材料が増えたことも要因です。
開発サイクルの短縮が求められる現代において、金型修正による数週間のロスは許されません。「金型を作る前にバーチャルで試作する」ことで、試作回数を減らし、開発トータルコストを削減できる流動解析の重要性は、今後ますます高まっていくでしょう。
失敗しない流動解析の活用フロー(ハイブリッド運用のすすめ)
「外注か自社導入か」を0か100かで決める必要はありません。最も賢い運用方法は、両者を組み合わせる「ハイブリッド運用」です。
難易度やフェーズで使い分ける具体的ケース
例えば、以下のような使い分けが効果的です。
- 設計初期のラフな検討(内製)
安価な簡易解析ソフト(CAD付属の機能など)を導入し、設計者が大まかな充填パターンを確認する。ここではスピードを最優先し、明らかな設計ミスを潰します。 - 最終確認や難易度が高い製品(外注)
金型製作の直前確認や、反り対策がシビアな製品、特殊な樹脂を使う場合などは、プロである外部パートナーに詳細解析を依頼します。
このように、日常的なチェックは自社で行い、ここぞという重要な場面や、社内のスキルでは対応できない高度な解析は外注を活用することで、コストを抑えつつ品質を担保することができます。また、流動解析はあくまで、解析結果を導き出すためのツールです。解析結果を基に金型設計案を考えるのは、解析者や設計者の役割です。ハイブリット運用を行うことで、自社とは異なる金型設計プランを発見できたり、同じ結論に至る場合には解析の信憑性を高めることにつながります。
まとめ
流動解析は、射出成形における試作コスト削減と納期短縮を実現する強力なツールです。導入にあたっては、以下のポイントを整理しましょう。
- 解析頻度: 年間20件以上なら自社導入、それ以下なら外注がコスト的に有利。
- 社内リソース: 専任のエンジニアを育成できる余裕があるか。
- 求める成果: とにかく早く見たいのか、金型設計に直結するプロの提案が欲しいのか。
自社導入は自由度が高い反面、維持費と育成のハードルがあります。一方、外注は初期投資ゼロで確実な結果が得られますが、都度コストがかかります。
もし、「まずは解析の効果を試してみたい」「自社にノウハウがないので、金型製作のプロに相談しながら解析してほしい」とお考えであれば、金型・成形の知見を併せ持つパートナーへ依頼するのが近道です。現場を知るプロならではの、単なるシミュレーションに留まらない「成形できる対策案」が得られるはずです。






